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ダウンタウンの証券取引所からはじまった騒ぎで、この帝国が崩壊するといわれても、大多数の庶民はいまだにピンと来ない。ピンとくるのはどこもかしこも仕事をくれなくなったことで、このままでは個人の生活がすぐ崩壊する。すべての個人の生活が崩壊すれば、そのときこの国が崩壊しているわけだ。なるほど理屈はわかるが、まあ明後日には選ばれる新しい大統領がなんとかしてくれるわい。だから投票だけには行って、あとはよろしゅーに、といったところが大多数のオプティミスツたち=アメリカ人の気持ち。アマイアマイ。 たよりの米帝国が崩壊したら、日本も崩壊してしまう。かといって日本に住んでいたら米大統領選には投票できないし、ただあたふた、といったところが大多数のペシミスツたち=日本人の気持ち。キツイキツイ。 この土台がおなじで兄弟のように対比しているふたつの精神を持ちつづけながら、そしてそのふたつともをコテンパンに批判しながら、いつもアメリカと日本のことを語り夢見ていた詩人とお話をしてみよう。 寺山修司著「さかさま世界史・英雄伝」で最初に登場する英雄はコロンブスである。コロンブスが卵のはしをテーブルにこつんと叩きつぶして手を放すと、卵はそのまま倒れずに立っていたという。 コロンブスの新大陸発見に代表される、ヨーロッパのアジア・アメリカ新大陸への征服航海は「地球のはしをこつんと叩きつぶす」ような破壊的なものだったと、歴史が証言している。スペイン、ポルトガルは、略奪と搾取のために未知の大陸に進出し、それをバラ色の探検譚に書きかえたものにすぎないのである。 実際の卵なら、たとえばサザエさんが150円で買ったエッグスタンドに簡単に立ってしまうが、地球を立てるようなエッグスタンドはどこにもない。だから、卵はもう数十年も前から、はしをこつんと叩きつぶされることはなくなったが、地球の方は相も変わらず、あちこちで、はしをこつんこつんと叩きつぶされ、そのうちに大きくひび割れるのではないかと心配されているのである。 — コロンブスは自分がアメリカ大陸を発見したことを知らなかった。マルコ・ポーロの東方見聞録に触発され、黄金の国ジパングをたずねて航海に出た。日本をさがしに行って、アメリカ新大陸を発見した、という偶然性を政治化して考えると、その後の日本とアメリカとの相似関係がよくわかるというひともいる。 全共闘系学生曰く「つまり、日本はアメリカで、アメリカは日本であるということがコロンブスの意識の中で、予見されていたということですよ」 新宿ブルース曰く「西を向いてもだめだから、東を向いただけなのよ」 寺山氏の少年時代、探検家のコロンブスがアメリカ大陸を発見した物語は、大きくなったら船乗りになるという夢があったかれの頬をほてらせた。だが長じてコロンブスについて書かれたものを読み進むうち、かれの純情は裏切られた。 — コロンブスという中年船長は生活に困り、なんとか “一山当てたい”と、黄金の島ジパングを手に入れ、その島から強奪することを条件にスポンサーをさがした。スペイン女王に出資させ、3艘の船で出発するが、計画と海図が不完全で、黄金の島とはまったく反対方向のアメリカ大陸にたどり着いた。コロンブスはその島からなにがしかの利益を上げようとして、掠奪と搾取と人殺しを働いた。しかしアメリカ大陸が不毛の地であることはかわらなかった。のちのヨーロッパ人のこの大陸における掠奪と搾取と人殺しの歴史は、この人物にはじまる。 寺山氏のこの英雄に対する幻滅は、のちにアメリカ合衆国に対する幻滅、そしてその暴力国家に従うほかはなかった日本に対する幻滅にと結びつく。このことは氏だけでなく当時の日本に住む若者すべてが共有した感情であった。 ませた高校生だった僕は、当時の現代詩手帖などを教科書の間にはさみ、谷川、長田、天沢などという大詩人のなかに寺山修司の名前も強く記憶した。 その後、成人してからの氏との刹那的な3度の出逢いは、8月にセントラルパークの怪人の冒頭にも書いたが、刹那的なるがゆえに一瞬の油断による刀傷のように、わが精神に深く食い込み今に至っている。そのときは気づかなかったが、少なくともそれらのうちのひとつは真剣勝負だったのだ。 最後に刹那的に寺山氏と別れてからすぐの30年前、僕はなぜその新大陸に来たのか、以来なぜその国に居座りつづけているのか、漠然と考えるのは自分にとっての住み心地のよさが51%ぐらいの割合で、住み心地の悪さの49%を上回っているということか。日本に残られている方々は、きっとほんの少しの優位で日本の方が住み心地がいいにちがいない。住む場所とはそんなものだ。だれかの格言で「汝の住む場所を愛せよ」などというものがあるが、いつもそううまくはいかない。そんな僅差の住み心地だから、ついついこのアメリカに愚痴もでる。愚痴ぐらいならいいが、だんだんこの国のすべてに腹が立ち、ぼろくそに言うようになってきた。特にパパブッシュが湾岸戦争をはじめたあたりから、この国の政府のやり方がなにからなにまでアタマに来はじめた。しかしいくら怒り心頭に達しても、まだ51%ぐらいは好きなのだ。まことに発作的な恋愛のように論理的ではない。おまけにたちの悪いことにその発作恋愛はその後30年もつづいている。 故寺山氏の少年時代の限りなく幻想にちかい夢と、限りなく近い位置に僕のアメリカでの現実がある。この本の引用をつづける 海の向こうに新しい大陸があるという幻想は、私にもなかったわけではない。岸壁に腰かけて、海に沈む陽を見ていると、いま住んでいる場所は、かりそめの土地で、海の向こうにある大陸こそが、生きるべき場所なのだ、という気がした。 少年だった私は、その大陸をさがしに行くべきかどうかについて悩んだ。 筏で太平洋に出てゆくということをまじめに考えてみなかったわけではない。だがそれは私が私自身から逃亡することを意味しているように思われるのだった。 私の新大陸の条件。 そこでは人は生まれたときから死んでいて、だから2度と死ぬことのない国。すべての男は狩人で、どの鳥も想像力より高く飛ぶ国。 夜と昼の長さが日によって2倍もちがい、大地に耳をつけてきくと,いつでも海鳴りがきこえ、道路はどこにもなく、親類はみなランナーで、いつも走っている国。人はすぐにもの忘れするので、歴史のない国。どのシャツにもボタンのついていない国。そこで、私は終わりのない少年野球の外野手だった。空に大きくあがったセンターフライを追って、どこまでも走りつづけ、いつの間にか日が暮れて、ボールを見失ってしまい、それでもグローブを頭上にかかげながら、走りつづけてゆく。ボールはぐんぐんのびております。センターはバック!バック!バック! 私は私のアメリカ新大陸が、どこからどこまでつづくのか知らなかった。 それでもセンターフライを追ってゆき、びっしょりと汗ばんで目をさます。 さようならコロンブス。私の探検の夢は、いつも感傷的にしめくくられるのだ。 かれの感傷の夢紀行と僕のニューヨークでの現実の旅は、たえず接点を保ちつづけて現在に至っている。これらふたつの感傷旅行は、「古きよきアメリカ」を追う旅では決してなく、いわば「古き悪しきアメリカ」を告発する旅である。氏の感傷旅行は現実のアメリカがあまりにひどいので、得意の夢の中に逃げこんでしまわれた感じもする。 1968年3月、寺山修司は米国国務省の招待でアメリカへ出発した。ヴェトナム戦争と公民権運動で激震するアメリカを観察し、のちに「アメリカ地獄めぐり」というエッセイを記すことになる。 氏がいくら口を酸っぱくして「アメリカは地獄だ」と言いつづけても、日本人はアメリカにあこがれつづけ、全共闘が叫ぶ「米帝」ということばにさえあこがれの響きを感じたのは僕だけだろうか。いやある意味で寺山氏も僕もほかのみんなも、そこが地獄だからこそ、あこがれはじめていたのかもしれない。 それから数十年が経ち、世界はまるっきりその「アメリカ地獄」に席巻されてしまった。前出の全共闘の学生が現代にタイムスリップしてきたら、こう宣わるにちがいない「つまり、世界はアメリカで、アメリカは世界であるということがコロンブスの意識の中で、予見されていたということですよ」 イヴが禁断の果実を口にしたためエデンの園を追放された人類は、その地獄の中で新たな罪を犯した。アメリカン・スタンダードというお墨付きをもってマクドナルドは世界を制覇し、狂牛病の肉で造られたかもしれないビッグマックは、現代の禁断の大果実だったのである。ネットやITによるグローバリゼーションだけでなく、世界中の胃袋を安く満たせてあげる、という甘い言葉にまどわされ、世界は悪魔の食糧を買いつづける。やがてそのかって格安だったトウモロコシはひとの口ではなく、クルマのガソリン・タンクに吸い込まれ、価格は高騰し、世界の多くの貧民たちが餓えて死んで行く。 そして1983年に他界された氏は極楽浄土におわし、それも端の方で津軽なまりでブツブツと、しかし明解で痛烈で感傷的な詩を口ずさんでおられるにちがいない。その詩の内容たるや、もはやアメリカを弾劾するだけでなく、その悪魔的手法にだまされた全世界の人類を弾劾する方に向いている。どうも時おり、まだこのNY地獄めぐりにしがみついている僕に発破をかけに来られて、思い切り背中を押されているようだ。この稿も氏の誕生日12月10日に間にあえばいい、などとのんびりかまえていたのだが、今朝の夢見によると、どうしても大統領選の前にポストせよ、とのお達しであった。 ひょっとしたら、今まで述べてきた「古き悪しきアメリカ地獄」が近々終息をとげ、「まったく新しき良きアメリカ天国」が生まれる、あるいは新大統領による革命が起こるということならば、諸手を上げて喜ぶところだが、この事態がそんなに簡単にハッピーエンドに終わるわけがない。アマイアマイ、という氏のお言葉が聞こえてきそうだ。 寺山氏のもうひとつのご専門だった、競馬予想屋風に言えば、かたや対抗のマケイン候補は、パドックにお目見え最終日の今日までは、ルックス真剣に当選を叫ばれているが、本音を言えばこんな無茶苦茶なときに、あと4年も大統領などやってられるかい、とばかり早々にアリゾナのご自宅にひきこもり、コースとはちがう道への逃げ馬となる算段であるそうな。地獄のコロンブス艦隊の末裔/アメリカ帝国は、しばらくのあいだ、より深く潜航するだろう。金魚も例の潜水泳法で、小さな小判ザメのごとくつきあうしかない。明後日には決まるだろうオバマ新大統領も、大きく陥没したアメリカの大平原に、細かく地図を描きいれるという、まったく前途多難の4年のはじまりである。 マルのピアノにのせて 時速100キロで大声で読まれるべき 65行のアメリカ 寺山修司 アメリカよ 小雨けむる俺の安アパートの壁に貼られた一枚の地図よ そして その地図の中のケンタッキー州ルイスビルに消えて行った 二年前の俺のぬけがら チャーリー・パーカーのレコードの古傷を撫でる 後悔と侮蔑の 英文科二年生秋本昇一の 二十年間の醒めない悪夢よ そしてまた二度と帰還することのないB29 草の葉の第二次世界大戦のアレックスやヘンリーやトーマスよ 死んでしまったのだ ジェームス・ディーンの机のひき出しに 今も忘れられている模型飛行機のカタログよ 歌うな数えよ 数だけが政治化されるのだ プエルトリカンの洗濯干場の十万の汚れたシーツよ 時代なんかじゃなかった 飛べば空なのだ すっぱりと涙よ アメリカにも空があって エンパイヤーステートビルから俺の心臓まで 死よりも重いオモリを突き刺す パンアメリカン航空のカレンダーよ キリーロフは見捨て 圭子はあこがれる ジャック・アンド・ベティのマイホーム ニューギニアの海戦で俺の親父を殺したアメリカよ コカコーラはビル街を大洪水にたたきこむ カーク・ダグラスの顎の割れ目のアメリカ マルクス兄弟の母国のアメリカ ホットドッグにはさまれたソーセージが唸り立つ勃起のアメリカ 老人ホームの犬は芸当が得意な、おさらばのアメリカよ 大列車強盗ジェシー・ジェームズのアメリカ できるならば そのおさねを舐めてみたいナタリー・ウッドのアメリカ カシアス・クレイことモハメッド・アリが キャデラックにのって詩を書くアメリカ 百万人の唖たちの「心の旅路」のアメリカ そしてヴェトナムでは虐殺のアメリカよ 見えるか スタッテンアイランド あこがれの摩天楼を遠望しながら 二人ぼっちで棒つきのキャンディをしゃぶった ジェーンとその兄のアメリカよ おかまのジェームス・ボールドウインは なぜ白人としか寝ないのだアメリカ LSD5ドルで天国のアメリカ マンホール工事は墓堀仕事のニックの孤独なアメリカよ ホーン・アンド・ハーダーで15セントのコーヒーばかり啜る ユダヤ人のワイデルベルクはいつ母親を売とばすのか そしてまたアーチー・シェップは 眼帯をかけて叩まくる半分のアメリカよ 今日もまたハリウッドの邸宅のプールで泳ぐ 老女優ベティ・デヴィスの最後のメンスよ 星条旗よ永遠なれ アメリカよ アメリカよ それはあまりにも近くて遠い 政治化 ラッキーストライクの日の丸を撃つために 駅馬車は旅立つ カマンナ・マイ・ハウスのアメリカよ 地図にありながら幻のアメリカ 遥かなる大西部の家なき子 それは過去だ あらゆるユートピアはいかり肩で立ちあがる 鷹がくわえた死の翳のアメリカ 醒めるのだ 歌いながら 今すぐにアメリカよ!
by nyckingyo
| 2008-11-04 08:59
| 地球号の光と影
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