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「生きものの記録」は記録されたか 補遺 よりつづく 対自然戦争という愚行 灼熱のニューヨークを少しでも涼しく過ごすために、ロシア怪談風のタルコフスキーの映画論に戻ろうと思ったのだが、そのまえに時事問題をとりあげることにした。抽象的な意識論ばかりをくり返していると、この街の暑さとの相乗効果でアタマが溶け出してしまう、ヤバイ、と思ったからだ。ところが時事に目をむけたとたん、ジジ、ジジ、ジジ、と自分の全肉体がSOHOのコンクリートに焼けつくような状態となり、先ごろオバマとメドヴェージェフがなかよく食べたこんがり炭焼きバーガーの一丁あがりである。悲惨なるジジジ(時事時)の現実。どうやら現代社会では政治・経済・社会のさまざまな具体的問題すべてが、ちゃんと理解するまえにわれわれのアタマの方を溶かすように仕組まれているとしか思えない。 折からイーストリヴァーでの July 4thの花火の音が聞こえている。建国の宴とともに、この帝国の終末を暗示する悲惨な大災害の実体をレポートしてみよう。 オバマ大統領はメキシコ湾原油流出事故の収拾にあせり狂っているが、決定的な対策などまったく思いついていない。いまやパンドラの箱の蓋はみごとに行方不明である。すべてイギリスBP社がワルイ! CEOがバカンスでヨットに乗って遊んでいるとはケシカラヌ! などと叫んでいる。叫んだあと、自分もきっちり二度もバカンスをとっている。悪徳経営者に肩を持つわけでは全然ないが、まだきれいな部分の残っている海のうえで、地球生物の一員としてどうすれば本当に美しい海をはやく取りもどせるか、思案したほうがまだしも早くいい考えが閃くのではないか。大統領選のときのあの斬新なオバマ風発想はいまやどこにも見当たらない。ホワイトハウスはこの木賃あぱぁと金魚亭のようにクーラーがないというわけではないだから、冷えたアタマで冷静に考えてなにか妙案はないのか。しかし暑い! 公私入り乱れて支離滅裂になってきた。 いままでこの連載「惑星ソラリスの海に泳ぐイカ」で半年以上もかかって述べてきたことは、この無限に近いほどの生命種を内包する地球という星そのものが、実はその全生命の意識の集合体としてのひとつの生命体であり、もう一度逆説的にその星に住むすべての生物の方に振れば、その星の肉体というものの最低限度の自然状態を保持する義務があるということである。 戦争も、核も、あるいは平和も、そして経済問題さえも、実はすべてが人類を含めた地球星の「環境問題」とはいえないだろうか。いやぁ、暑さゆえ汗の一滴づつとともに絞り出すような「環境」論理に、我ながらどこかスゴミがありますなぁ。 中沢新一・波多野一郎共著の新書判イカの哲学の最後の部分で、中沢氏は「私たち(人類)は近代になって、自然を相手にする大規模な戦争を開始してしまった」と告発する。 戦争では「敵」が自分と同じ実存であることを忘れて、無慈悲になることが兵士には要求される。それと同じように、近代の科学技術と経済は、自然から実存を奪ってきた。かって農民は自分たちが耕している大地が、工場と同じような利潤生産を行なう対象だとは考えなかったはずだ。ところが資本主義の経済では、大地は利潤をもたらす工場であり、自然はエネルギーと資源を引き出してくれる物質的な対象として、取り扱われるようになる.こうしてたとえば、大洋を悠々と回遊していたイカたちは、良質のタンパク質に富んだ生きた有機物として、いちどきに大量に捕獲される。こういう事態になることを、昔のひとは「まるで戦争のようだ」と言って回避しようとしてきたのだった。(中沢新一「イカの哲学」集英社新書 p-158) そしてその人類が自然に対して布告してしまった戦争の、無惨な敗戦の結果が、逐次報告されはじめている。 テキサス州ヒューストンにある僕のクライアントのひとりに電話すると、トーンが実に暗い。ハリケーン・カトリーナのときより数等深刻だ。仕事の話はそっちのけで「この付近の海岸はまだきれいだけれど、すぐに原油が押しよせるだろう。ことし最初のハリケーン・アレックスはテキサスをかすりメキシコに行った。今回は流れた原油の端をかすっただけだが、それでも原油は広範囲に拡散し、回収がひどく遅れてしまった。これから天は例年より多く、バンバン大型ハリケーンを製造する。おぉマイごっど!」 メキシコ湾原油流出事故は、ことし4月、ルイジアナ州のメキシコ湾沖合にあるBP社の半潜水式の石油プラットフォーム「ディープウォーター・ホライズン」(名前からしていかにも大仰な事故を起こしそうですねぇ)が爆発し、海底1.5kmの掘削パイプが折れて海底油田から大量の原油がメキシコ湾全体へと流出しつづけている事件である。 6月末までの原油総流出量は約45万キロリットルで、まさに史上最大の原油流失事故。地球上の生物への被害はかなり深刻になってきた。 原油には動物実験で接触による発ガン性があることが実証されている。 これからメキシコ湾で発生し、到来するハリケーンが海上で水蒸気を吸い上げ、陸上で雨になる。揮発性の原油も陸に運ばれ、発ガン性の雨はアメリカ全土の農作物に降りそそぐ。 現在すでに、雨に原油が含まれていることが確認されている。 ここまではまだしも自然災害っぽい(では決してないのだが)というひともいるかもしれないが、このあとがひどい。BP社が原油流出現場で大量に撒いたコレキシットCorexit という原油分散剤のことである。 つい先日ロシア大統領の帰国直後に、FBIがロシアのスパイ団を逮捕した。このタイミングのよさについても取沙汰されているが、それより以前にこの原油流失事故に対してロシア天然資源環境省が痛烈な批判レポートを発表している。「BP社の原油流出は、北米大陸の東半分のすべてを 『完全な破壊』 に導くだろう」。欧州の連合タイムズも「これは人類史のなかでも最悪の環境大災害である」と口を揃える。ロシアの科学者たちは、BP社がメキシコ湾での原油流出のひどさを隠すために、原油の四倍の毒性をもつコレキシットを大量に投入しているのだという。毒性もひどいのだが、この溶剤がメキシコ湾の暖水と混ざることによって、分子レベルで相転移し、海だけではなく地上にも甚大な被害をもたらすのではないかという危惧である。分散剤とは、油を小さな油滴に分解するもので、小さくすることで速やかな生分解を促す。マヨネーズを造るときも油分と水分を混ぜ、相転移が起こる。原油流出事故の直後、海面の原油を処理するためにこの分散剤がメキシコ湾に大量にまかれた。油が付近の沿岸でなく海中で分解することで、沿岸の生態系への被害を抑えることができる。分散剤の毒性で深海の生物は犠牲になるが、とりあえず海岸線はかたちだけ多少とも守れるというわけである。水深約1.6キロメートルの海中にある油井の出口部分にも、分散剤が直接大量に注ぎ込まれた。使用量は6月末までに121万ガロンに達し、過去にこれほど大量の分散剤が使用された例はどこにもない。 コレキシットの相転移には液体を気化することも含まれていて、このガスが雲に吸収される。相転移し、ガス化した分散剤の毒が雲に吸収され、これからメキシコ湾に多発する大型ハリケーンたちが地上に毒性雨をばらまき、あらゆる生態系を滅ぼし、想像できないほどの環境の壊滅的災害を引き起こす、とレポートは語る。 地球というひとつの巨大生物が、人類によってその海底の奥に内蔵していた血液を吸い取られつづけた。こんどはその血を吸い取る注射針がはずれたとたん、人類のちからではもはやその流血は止められなくなった。油分を細かく分散する以外になすすべもないその流血は、その毒性を振りまきつつ地球星の表皮を覆う。西洋医学の「対症療法」というインスタントなことばがむなしく響きわたる。現代科学は地球星さえも決して根源的治癒のない対症療法の対象にしようとしている。そしてその対症療法のひとつがコレキシットという原油分散剤であり、その薬剤は毒性を分散させるだけで、その星に住む生命をますます危機に陥れている。 ロシア環境省の痛烈なレポートを紹介したが、6月はじめNYタイムスは、旧ソ連邦が天然ガス田からのガス漏れを止めるため、地下で核兵器を爆発させ、超高温で岩石が溶け、原油の封じ込めをした、という話を掲載した。現在の米政府がこの案を検討しているという報道だった。薬品による対症療法では効果が薄いので、大手術を決行すれば、という大馬鹿アイディアである。米政府は否定しているが、プランだけでも浮上したのなら本末転倒もはなはだしい。核実験が日常で行なわれていた冷戦時のことで、核廃絶を叫ぶオバマの現代とは核の倫理も激変しているとは思うのだが、一抹の不安は残る。当時のソ連が作ったYouTubeプロパガンダ映像がある。おぉマイごっど again! 連想ゲームのようだが、ギリシャ神話の「パンドラの箱」の物語をメタファーとして思い起こした。プロメーテウスが天界から火を盗んで人類に与えたことに怒った神々の王ゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」というものを創るよう神々に命じた。ヘーパイストス(火山の神、転じて火と鍛冶の神)は泥から女性の形をつくり、パンドーラーと名づけ、最後にかの女に決して開けてはいけないと言い含めて箱を渡す。その箱にはこの世のありとあらゆる災いが収められていたのだ。美しく魅力的で、誘惑の術を使うパンドーラーはついに好奇心に負けて箱を開いてしまう。すると、そこからあらゆる災害、疫病、悲嘆、貧困、犯罪などが飛び出し、パンドーラーは慌ててその箱を閉めるが、すでにひとつを除いてすべてが飛び去ったあとであった。 まさにその僕のインスピレーションを裏打ちするように、MoMAで1929年のドイツ・サイレント映画「パンドラの箱」の上映があった。戦前のドイツ映画界の三頭監督のひとり、G・W・パプスト監督が、一世を風靡した妖艶なアメリカ女優ルイズ・ブルックスを主人公の悪女ルルにキャスティングし、魅惑的な現代のパンドーラーを描いている。ルルは見事にコケティッシュに描かれ、観ている男性のすべてはどうしようもないかの女の魅力に圧倒され、同時に軽薄にほかの男のなかを飛びまわるかの女に嫉妬する。声のないルルの立ち振る舞いに観客席にも激しい騒擾(そうじょう)が生まれる。かの女の行くところ災いがつきまとい、最後に殺人鬼がかの女を殺すという典型的な「悪女」映画の原典である。 はて、現代文明の必需品「原油」とはパンドーラーやルルのような悪女なのだろうか。二年前のやはり暑い夏の盛りに、原油というものの醜悪な姿をこれ以上見たくないという思いから、過去からみた化石燃料の未来という連載稿を書いたが、このルックス・バッドな液体が、そのまま世界経済を左右するどす黒い液体ダイアモンドであり、その潜在する膨大なエネジーで人類のこころを惑わしつづける、という事実はいまのところまだ揺るぎようがない。次世代のエネジーが、試行錯誤しながら実にゆっくりではあるが、徐々にかたちを表しはじめていることに期待したい。 金魚のフン工法 例によってむかしの私事を語る時間となった。 30年前のはじめての渡米、サンフランシスコに上陸して約半年のあと、ダウンタウンのフィナンシャル街、エムバカデロ・センターにある環境エージェンシーで、僕にアメリカではじめてのまともな仕事が見つかった。なんとUS 環境省(Department of Environment)へのプレゼンテーションのヴィジュアル制作を手伝うというものである。あとでわかったのだが、PCがまだ影も形もなかった当時のアメリカに、速く器用にイラストや図面を描ける人材が極端に少なかったせいで僕が採用されたわけだ。日本人のグラフィック・デザイナーと聞いただけで面接の人事係員の顔色が変わり、僕のポートフォリオを見て満面の笑みとなった。フリーランスの科学者が百人以上集まった環境研究所のような代理店だったが、朝から晩まで何十枚という絵と図面をひたすら描きつづけた。当時から空気中の二酸化炭素が増え、オゾン層が破壊され、地球が温暖化していることは、外の世界ではまだ知らないひとも多かったが、この社内では常識であった。環境に関する種々雑多な仕事をこなしたが、なかでも数が多かったのが「原油流失対策」の図面である。担当の老科学者氏がメモ用紙に鉛筆で簡単な絵を書く。渡米直後の僕はゆっくりと話してくれるかれの英語を聴きのがすまい、とそれだけに必死で集中した。 老科学者氏のメモには約十艘のボートが描かれ、各ボートのお尻には原油を囲うための長いフェンスが付けられている。その船たちの中央に、ロールシャッハ・テストの図形のようなオイル・スピルが描かれている。 「各ボートがフェンスの手をつなぎながら、距離を縮めて行けばいいんだよ」「なるほど、原油のシミは小さくなりますナ」「そこで船からヴァキュームが伸びてスピルをチチッと飲んでくれる、ストローでコカコーラを飲むようにね、ナッ、これを四枚の図面にしてくれよ」「なるほど、わかりました、それだけですか? Is that it?」「それだけだ That’s it!」「いや僕のいうのはつまり、このプロジェクトはそれだけで終わりですか、という意味ですが… I mean, is this all we have to do in this project?」「それだけだ!That’s it!」。 当時の僕は何度目かの「龍馬がゆく」を読み終えて「坂の上の雲」にハマっていた時期だったから、あの日本海海戦での参謀秋山真之になりきって空想の紙の海で船を動かし回した。天気晴朗ナレドモ浪高シ、鶴翼(かくよく)の陣、敵前大回頭、挟撃。連合艦隊司令部はみごと敵である原油のシミたちを完全包囲した。 そしてこの米環境省に向けての、想定アラスカ沖原油流出回収作戦のプレゼンテーションは、僕が描いた百枚を越える図面とともに無事に終了した。 それから30年のときが過ぎ、ことしになってメキシコ湾原油流出事故が起きたわけである。海上に流失した原油を回収する作業をTVで見ていた僕は唖然とした。そこには30年まえに僕の書いた図面どおりに、数艘の船がフェンスをひっぱり合っているだけである。ひょっとしたらあのプレゼンテーション以降、その書類たちはずっとUS環境省の引き出しに眠っていて、30年後のいま、その大事故とともにやっと日の目を見たのではないか、と妄想したほどだ。僕がいちばん驚いたのは、その実に原始的な原油回収方法が30年まえとどこも変わってはいなくて、メキシコ湾に浮かぶ原油を船でかき集めるだけというまったくの一時凌ぎの方法で、さも近代科学の粋を集めたように堂々と行なわれていることだった。 ハリケーン・アレックスで足止めを喰っていた台湾の巨大タンカーを改造した原油回収船の試運転が今日7月5日から再開し、期待がかかっているが、これも上記のフェンス作戦と似たり寄ったりで、実に効率の悪いものではないだろうか。巨大な元タンカーは原油入り海水を大量に飲みこんで、水だけを吐き出すというが、図体が大きくて水ばかりガブ飲みするウドの大木を想像してしまう。原油が海水に混ざった時点で、すべては後の祭りであり、その上にハリケーンが来れば、巨大船にはなにひとつすることがない。戦艦大和や武蔵の教訓を忘れたか。この分野での日本人の最先端技術はどこからも登場しないのか。 6月に入ってからのBP社の原油排出口付近での動きは、不気味ですらある。6月3日、巨大電動ノコギリで送油管を切除。5日には油井の安全弁に巨大なフタを設置して原油を海上のタンカーに吸い上げる「フタ作戦」の作業がはじまった。だがフタが辛うじて閉まり原油を吸い上げることができたとしても、これは一時的な対策にすぎない、と担当者は公言している。現在漏出する原油量は一日約1万9000バレルとされており、フタのできたあとの回収はその三分の一にも満たない。次にBP社はどうやら原油排出口近くに新しい油井を二ヵ所も掘削し、これによって現在の排出口の圧力を弱めようとしているらしい。だが現在の排出口の下には地下岩盤に5kmのパイプがつづいているのだ。旧掘削ポイントの圧力が下がる保証はない。新たな二ヵ所の油井が新たな事故を起こす危険性も大きい。なんとも無様な「対症療法」の海底診察室。「二兎追うものは…」の故事に嵌らねばよいと願うばかりである。 パンドラの箱が開き、蓋が行方不明なのは、天の意志なのだ。そのことを全人類が理解できるまで、かたちを変えてあらゆる場所で天の制裁はつづくだろう。 むかしの極私的な記憶と、現代のBP社や米環境省の欲ボケ発想と不甲斐なさを責めて、やっぱりまったく方法などないのです、と尻をまくってこの稿を終わるわけにはいかない。大学時代は建築の授業もかろうじて取り、30年まえの環境お手伝い経験を含めてまったくの素人ではなかったわけだから、汗といっしょに僕なりのない知恵を、一晩かかって絞り出してみた。名づけて— 「金魚のフン工法」全原油救出大作戦 ● 軽い原油が大量に噴出している口にフタをするという発想を完全に捨て去る。現在洩れている原油も、地球星の大切な資源であるから、原油も生物もすべてを救済するという発想でかかるべきである。 ● 直径がかなり大き目(直径3-5m、長さ15m)の巨大なパイプを地上のプレキャスト工場で100-120本製造する。材質は高い水圧に耐える強度と、浮力をなくす重量のある金属かプラスティックスがよいと思うが、強い海流に対して多少柔軟性のあるものがよい。パイプ内側を強度の高い金属コーティングをする。 ● もとの石油プラットフォームがあった位置に新たに半潜水式の巨大プラットフォーム数基を移動する。このプラットフォームの浮力は最大限に設定する。 ● 長さ15mのパイプを海面に向かって落とし、その位置で次のパイプを上に積み上げる。ふたつのパイプのジョイント部分はパイプ本体と同等以上の強度が必要だが、海流や圧力に対してフレキシブルな素材と手法を使う。 ● 以下まさに「金魚のフン」のごとく長さ15mのパイプを次々と上に積んでいく。下になった重いパイプは、重力の法則にまかせて海底の方向に向かって粛々と沈んでいく。100本のパイプが繋がったとき、一番下のパイプは、海底の原油噴出口のあたりをさまよっている。潜水カメラアイで誘導し、ロボットアームでパイプを噴出口の真上にカッポリと被せる。 ● パイプ内部の原油は粛々と海面にまで上昇し、広い直径のスペースで原油の圧力は下がり、将来にわたって平和裡にすべての原油を回収できる。 原油を救出し、地球上の全生命を救出し、地球星そのものも救出するには、静かな深海を静かなままに治癒するこの金魚のフン工法しかないと思う。 この喧噪の街と同じ感覚で、深海を騒がせてはいけない。ゼウスだけでなく、ネプチューンも怒る。ポニョのお母さんで、広大な海の母でもあるグランマンマーレも怒る。生きものが暮らすための最初の環境は、「静かの海」である。あぁ、自画自賛の深海漫歩で気分が少しだけ涼しくなりました、マル。 本稿のホントの金魚のFun & Fun: アメリカの理工科系の修士に訊いてみました。今回の小さな金色の魚 Poissons d'or の排便行為をまねた工法は、非常に原始的な感覚は否めないが、基本的にはまちがっていないのではないか、多くの最先端環境土木学者が提案しようとしていることと方向はおなじではないか、と(多少無理矢理ではありますが)褒めていただきました。 人類が最初に海底の原油を採取したときの、いちばん原始的な方法にもどればよい、との認識を深めたことであります。 この春、沖縄に旅立たれたわが臨済禅の師は、自分の身のまわりをきれいにしないで、なんの仏道であるか、と何度も叱咤されました。そ・わ・かの教え。教え通りにヴィレッジの街並をきれいに掃除するヴォランティアに参加していますが、暑いといってはサボり、寒いといってはサボり、サボり金魚とあだ名がつきました。お仲間のみなさま、ごめんなさい。今月からは精進いたします。 なにより自分のこのコンピューターのまわりはなんたることか。本の散乱、食べカスの散乱。これでよい仕事をするという方がまちがっておる。それを放っておきながら「ア・つ・イ・なぁ」とはなにごとであるか。まずは自分のまわりから、喝! タルコフスキー讃歌(上)につづく
by nyckingyo
| 2010-07-05 16:00
| ソラリスの海に泳ぐイカ
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